Eビジネスマイスターに聞く!JANES-Way 共催セミナー ブログ メルマガ リリース スタッフ募集 サイトマップ


Eビジネスマイスターに聞く!






株式会社インプレス 日刊工業新聞社 株式会社マーケティング研究協会
 共催パートナー募集!!

 
■ Report
  
第89回「Eビジネス研究会」                          平成19年9月14日(金) 
   
テ   ー  マ:

『セカンドライフから始まる3Dインターネットの可能性』
〜スプリューム、Multiverse、HiPiHi…
    セカンドライフだけではない仮想世界サービス〜

   
Eビジネス:
マイスター
ngi media株式会社
THE SECOND TIMES 編集長 
箱田 雅彦 氏
    

89回目の今回は、ngi media株式会社 THE SECOND TIMES編集長の箱田 雅彦氏をお迎えして、 『セカンドライフから始まる3Dインターネットの可能性〜スプリューム、Multiverse、HiPiHi… セカンドライフだけではない仮想世界サービス〜』をテーマに、黎明期にある3Dインターネット について解説していただきました。


■THE SECOND TIMESとは


「THE SECOND TIMES」( http://www.secondtimes.net/)は、2007年7月17日に創刊したメタバース専門ポータルです。セカンドライフだけでなく、メタバース(仮想世界)サービス全般を扱い、ニュースやコラムなど を提供しています。また、セカンドライフに入ったけれどもどこに行けばよいのか分からないというユーザーのために、セカンドライフに関するスポット情報も提供しています。  


私は、同サイトの編集長に就く前からセカンドライフに関する実験的な活動を行っていました。「Daifuku」島のオーナー、「Second Lifeビジネス・デザインコンテスト」ビジネス部門優勝 (2007年3月)などの実績があります。今年5月に、参議院議員の鈴木 寛先生が国会議員で初めてセカンドライフ内で事務所を持った際は、セカンドライフ内のアドバイザーとして関わらせていただきました。


■仮想世界サービスとは


シンガポールで行われた「Virtual World」のカンファレンスで話されたことの中に、Virtual Worldにおけるアイデンティティーというテーマがありました。リアルの人格と仮想社会とのアイデンティティーをどのように紐付けていくか、という話です。
韓国から参加された方が、自分のアバターをたくさん持っているユーザーが多いという話をすると他国の参加者が驚いていました。


仮想世界は「Virtual World」の訳語とされていますが、「Virtual」にはもともと「(実体はないが)本質を表す」というニュアンスがあるのです。バーチャルリアリティーという言葉も本来はそのニュアンスです。対して、「仮想」には「実際はそうでないことを前提として推量すること」や、「仮に想定する」というニュアンスが強いようです。海外で一般的には、バーチャルワールドは、現実社会と何らかのリンクを持った世界であるという認識があるようです。


実際の利用シーンをみると、用語の定義が定まっていないのがこの業界ですが、このセミナーでの定義として、「3Dインターネット(3Di)」は3Dとネットワークを要素として持つサービス。 「仮想世界」「Virtual World」「メタバース」は、世界の概念を持ち、複数ユーザーがコミュニケーションをとることができるサービスをさすことにします。


■セカンドライフ以外の他の仮想世界サービス


日本はほぼセカンドライフの独壇場ですが、これは仮想世界のひとつの形であるという認識でいるのがよいと思います。


セカンドライフ対抗の最右翼とされているのが、『There』です。音楽イベントの開催など、セカンドライフと似たアプローチで注目されています。一時、セカンドライフにビジネス的な活動が目立ってきた時期に、セカンドライフの初期ユーザーがかつての自由な雰囲気を取り戻すために移住したというようなこともあったようです。


『HiPiHi』。中国発のサービスで、「ハイピハイ」と読みます。ngi groupがリードインベスターとして日本進出をサポートしていく予定です。セカンドライフと見てくれは似ていますが、セカンドライフよりも新しい技術が使われています。それによって、少ないリソースで多くのユーザーが使用することができるといわれます。まだクローズドベータの段階で、今年の後半にパブリックベータが出る予定です。


日本発のサービスとしては、『Home』。これはソニーによるプレステを使ったサービスで、どちらかというとこれまでのオンラインゲームに近いと言われています。

リアルな東京をモチーフとする『meet-me』というサービスもあります。

『ViZiMO』は、SNSと連動した仮想世界サービスです。マイページの中にマイメタバースがあるというイメージです。物理エンジンに強い会社が運営しており、その能力が生かされた、物理的な動きがリアルなサービスになっています。

『メタモ』は、モバイル向けのサービスです。実は3Dではなく、実際は3D「風」のゲームみたいな感じです。

『Red Light Center』という、アダルト専門仮想世界サービスがあります。これは非常に過激なサービスになっています。

『Multiverse(MMORPG) 』は、仮想世界のプラットフォームとして、セミオーダー的に仮想世界が作れるサービスとしてビジネスを行っています。


『スプリューム』は、「3Dコミュニケーションプラットフォーム」と社長自らが言っていらっしゃいますがその通りです。サービスの基本としては3Dのインターフェース。3D空間は自身のWebサーバーから配信でき、空間と空間をつなげる空間リンクの機能を持っています。


これらに加え、Google Earthまで仮想世界と言う人もいるくらいで、現在の定義は非常に幅広いことがわかります。


■活用事例の現在


利用サービスは「セカンドライフ」が大多数を占めています。個人ユーザーによる創作活動、実験、エンターテイメント利用が中心です。ビジネス利用は直接的な効果よりも、パブリシティ効果や長期的なノウハウ蓄積などの意味合いが強い傾向です。


一方、最近は参入しただけではパブリシティ効果が薄くなってきたので、「セカンドライフに拠点開設」のみの利用は減ってきています。「何をするか」に着目した例を紹介したいと思います。


1つ目の事例は、テレビ東京「テレトロ祭り」(2007年7月〜8月)です。セカンドライフのSIM(島)ひとつを 丸ごとプロデュースしたことが特徴として注目されました。夏祭りをテーマにした各種イベントを実施し、コミュニティの形成効果、サイトとの連動によるイベントのクロスメディア展開、SIMの安定性や仕様上の人数制限など運用面での検証も行いました。


2つ目の事例は、リクルートのフリーペーパーによる「R25的ガク祭」(2007年7月)です。ここではスプリュームを利用しています。誌上アンケートを行ったところ、回答者の7割が参加意向ありと答えたイベントです。ただし、スプリュームのユーザーはまだ数万人。スプリュームを初めて使うという人が大半です。イベントにたどり着くまでの操作が分からないという人が多くいました。そこで、スタッフが個々のユーザーを手厚く支援してくれました。花火大会のような集客効果の高いイベントもあり、結果、仮想社会の中では、セカンドライフのイベントも上回るような、予想を超える集客数を記録しました。


負荷分散が行いやすい、通常のWeb サーバーが使えるなど、セカンドライフにはない、スプリュームのメリットを生かすことができましたし、空間のつながりから切り離しが効くという面でも、期間限定のイベントにはとても都合がよいことが分かりました。


3つ目の事例は、ロケットプレーン・キスラー・ジャパンという宇宙船メーカーによる「ロケットプレーンXP」です。ここでは、セカンドライフとスプリュームを利用しました。セカンドライフでは、ショールームで実際に飛行している様子を展示したり、自動応答ロボット「バズロボ」の活用で接客を一部自動化しました。 スプリュームでも宇宙飛行の様子を展示しました。宇宙旅行の疑似体験といった、より仮想世界の特性を生かしたサービスを実現するとともに、「バズロボ」の接客記録によって、お客さんが何を知りたいと思っているのかというマーケティングデータも収集できました。


■今後、仮想世界の企画をする上で気をつけるべきこと



セカンドライフはネームバリューがあり、日本ではほとんどセカンドライフしか認知されていないので、今後しばらくはセカンドライフに注力することになるでしょう。制作のハードルが比較的低い一方、セキュリティーの面、負荷分散が困難なことなど、運用面での課題は依然としてあります。


一方、ViZiMOのようにSNS連動であって、ゲーム性が高いものもあります。各仮想世界サービスの特徴を生かした選択が有効ではないでしょうか。


選択のチェックポイントとしては、「実施期間」、「限定か常設か」、「必要な機能」、「3Dインフラ」「アバター」「仮想通貨」などが、まず挙げられます。
そして、世界観について。仮想世界サービスの世界観を前提とするか、独自の世界観を作り込むのかを検討します。
対象ユーザーを仮想世界内ユーザーとするのか、仮想世界外ユーザーとするのかの設定も重要。
また、かけられるコストや、制作範囲をフルオーダーとするかセミオーダーとするか、なども考慮して決めるべきです。


■今後に必要なノウハウとは


現在はネームバリュー的に「セカンドライフ」が優位ですが、世界的にはセカンドライフはあくまでサービスのひとつにすぎません。サービスにはそれぞれ得手不得手があり、互いに補完しあう形のものも多くあります。そのような中で、サービスプラットフォームに依存しないノウハウを意識する必要があります。


具体的には、仮想世界でのコミュニティ運営、疑似体験をよりリアルに感じられる企画づくり、仮想世界・3Dインターネットならではの表現などが挙げられるでしょう。


■仮想世界はひとつになるか


中国のHiPiHi(ハイピハイ)では、メタバースをつなげていきたいという明確な目標をもっています。特徴をもった多くのサービスが誕生する一方、仮想世界の標準仕様を策定する動きもあるのです。


実現すれば、1企画中で複数サービスを混在して使うこともあり得るでしょうし、サービスごとの特徴を把握したノウハウが求められるでしょう。共通部分の制作をツールで定型化する動きが促進されると思われます。 また、制作時間の短縮や、余剰リソースの効率的配分による質的向上も期待できます。


もちろん、課題も多くあります。それぞれの仮想世界において共有できる部分は何か、できない部分にどう対処するかを考えていかなければなりません。影響が大きいと思われるのは仮想通貨の部分です。複数の仮想通貨システムを接続した場合の信頼性をどう担保するかといったことなどを議論する必要があるでしょう。


■まだまだ黎明期にある3Di/仮想世界サービス


仮想世界サービスを今取り組む意味について考えてみたいのですが、まず、「全員が本気」ではない、今だからこそ得られるノウハウがあると思っています。今はどれだけ失敗してもいい。何でも検証ができます。状況が変われば、その「変化」が情報となるのです。


「セカンドライフ」が長期的にもベストであるとは限りません。積極的に他のサービスを知ることで、セカンドライフの制約にとらわれない発想をしてほしいと思います。
セカンドライフという特定サービスの制約は、仮想世界・3Dインターネットサービスの制約とイコールではないからです。

業界の勝者はまだ現われていません。セカンドライフでさえ、わずか1000万弱の登録者です。ネットに例えれば、「mixi」「Google」はもとより、まだ「Yahoo!」も登場していない状態だと言えるのです。


3Dインターネットを「世界、空間」として認識する一方、「3Dとネットワーク」というインターフェースに単純化して認識することも必要だと思います。


現実世界をそのままもってくるというセカンドライフの「わかりやすさ」で立ち止まってはいけません。 文化的背景とあわせて、「本質」を探る必要があるのです。


■表現の可能性



現在はリアルを3Dインターネットに移し替える動きが盛んです。ただこれは、インターネットの初期に紙の会社案内を移し替えただけのサイトが多かった状況に似ています。その後、リンクの活用などネットならではの表現が出てきたわけです。同じように、3Dインターネットにおいても、できることを模索している段階であるといえます。


3Dインターネットの中では、現実のあらゆる制約を取り払うことができます。時間、場所、肉体的制約、物理的制約などもそうですし、今後は重力、気温、風なども自由にしたいという声もあるのです。


当初しばらくはアート、エンターテイメント用途が中心になってくると思います。クオリティーの向上により、次第に実用的用途への利用が進んでいくと思われます。


例えば、歴史の再現があり得るでしょう。立体アーカイブとして、図工の作品やおもちゃなど、実物を保存するには場所をとってしまうものを預かるサービスなども考えられます。さらに医療用途。腕のいい外科医は忙しい。そこで手術が難しい心臓の模型を仮想世界において、世界中の医師が治療法を話し合うといったアイデアも考えられるのではないでしょうか。




● 質疑応答


Q1 本格的に宇宙体験をさせるにはSIMをいくつ買うのか? 飛行機やロケットを飛ばすことがセカンドライフ空間で実現できるのか?

A1 これには2つのアプローチがあります。1つはセカンドライフを使わない。より適切なプラットフォームを選び直すのです。セカンドライフで実現させるのであれば、遊園地が参考になります。実際には飛んでいないのに、飛んでいるかのように見せる仕掛けをするということです。


Q2 企業経営に仮想世界をどのように生かしていけるのか? 先進的な動きをしている事例は?

A2 企業がセカンドライフをビジョン共有のために活用している、という明確な例はまだ聞いたことがありません。やはり聞くのはリンデンラボ社。後ろの席の人ともセカンドライフで話すことがあるそうです。企業以外であれば、世界観の共有という意味で、ゲームなどのワールドとの親和性が高いと言えます。実際、ライセンス的な問題は残っていますが、ファイナルファンタジーの世界観を表現した場などは話題になっています。


Q3 セカンドライフ以外の3Dワールドを世界的に比較すると、それらの規模は?

A3 世界的に見てもセカンドライフが飛び抜けていますが、数百万単位のユーザーを抱えた仮想世界サービスもあります。ただ、オンラインゲームはもっと多いです。中国では1つのサービスで1億人単位の人を集めるサービスもあるといいます。どの単位でジャンルを分けるかにもよるのですが、「Virtual World」のカンファレンスに来ているような企業のサービスの中ではセカンドライフの利用が飛び抜けているようです。


2007.9.14
                                     Copyright (c) 2007 Eビジネス研究所. All rights reserved.