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■ Report 第42回Eビジネス研究会
 
『コミュニティサイトと新しいマーケティング手法』
〜化粧品コミュニティサイト「@cosme」のコンセプトと活用事例〜
 
株式会社アイスタイル
代表取締役 吉松徹郎 氏

  サムネール pdficon
当日資料(抜粋版)


42回目の今日は女性認知度No.1サイト@cosmeを運営する株式会社アイスタイルの吉松徹郎社長をお招きして、コミュニティをベースにしたマーケティングへの取り組みや今後の展開についてお話しいただきました。


■@cosmeについて


月間PVが約7500万、@cosme会員数が48万人、1ヶ月のユニークの訪問者数73万人、登録商品数89000件、総クチコミ件数約216万件という規模を誇る日本最大の化粧品コミュニティサイトということができます。人気のある女性誌でも約10万部程度の発行部数であることから考えると、圧倒的に大きなメディアであるということができます。Amazon.com書評のコスメ版というイメージをすれば良いようです。


■@cosmeのユーザーイメージ


ユーザーの99.6%が女性で、その女性の属性はインターネットユーザーの構成とほぼ同じであり、化粧品市場の代表ではなく、インターネットユーザーの代表者であるということができるようです。
また会員48万人中、1つでもクチコミを書いているユーザーが20万人います。この20万人という数字は、インターネットユーザーが5000万人、うちモバイルのみのユーザーを除いたユーザーが4000万人、男女比が1:1として女性のインターネットユーザーが2000万人だとすれば、そのうちの100人に1人はクチコミの書き込みをしていることになります。
当初は1000人に1人ぐらいが書き込んでくれるかどうかと予想していましたが、予想を大幅に上回るクチコミが発生しているようです。


■@cosmeがトリガーになって増販する商品事例も


大島椿が10〜20歳代で急激に増販しましたが、これは@cosmeの情報がトリガーになった事例だそうです。
従来は年配層のユーザーが多い商品だったのですが、@cosmeでのクチコミをきっかけに若年層にも受け入れられる商品としてブランドイメージが変化し、爆発的に売れたようです。
@cosmeのクチコミコメントによると「ここのクチコミを見なかったら絶対買わなかったと思います」というように、@cosmeにしかない情報をもとに新たなマーケットが生まれる事例がいくつも出てきています。
大島椿以外にも、100円均一ショップの化粧品や、ガスールというモロッコの泥など、通常あまり情報が出てこない商品に関するクチコミは多数あり、雑誌のライターが@cosmeをチェックして記事を書くなど、メディアのネタ元にもなっているなど、より強い相乗効果が現れる例もあるそうです。


■クチコミは商品力ではなく、期待値とのギャップから生まれる


ユーザーは、あらゆるメディアや店頭POPなども含めて、商品に関する情報を見て、その商品に何らかの期待をして購入に至ると考えられます。つまり購入に至るまでのあらゆるメディアの情報、特に現在のマスメディアによる広告は商品に対する「期待値」を醸成する情報であり、どんどん期待を高めて商品購買のピークを作ることを目的に制作されています。そして、それらを見て期待したユーザーが実際に商品を使用することにより、その期待値とのギャップが発生し、「期待したより良かった」「期待を裏切られた」というコメントが発生し、@cosmeのクチコミとなって現れてきます。

また主にマスメディアによって実施される広告では、商品ターゲット以外の人にも広く期待値を高めてしまうことになる場合が多く、その結果として期待した効果が出ず低い評価をされるという商品もあるようです。ただ、それらのクチコミをした人をセグメント化して分析すると、ターゲット層以外では酷評されている商品が、ターゲット層には非常に高く評価されていることが把握できるなど、マスメディアによる広告のあり方を考えさせられるような事例もあるようです。
この点で、マーケティング手法については、マーケティングの4P(Product・Price・Place・Promotion)のうち、Promotion以外はセグメント化されているにもかかわらず、プロモーションだけマスに寄っているのはおかしいのではないか?という疑問も持っているようで、今後の広告の手法として、マスメディア以外のセグメント化されたプロモーション手法の必要性を感じました。


■これからのマーケティングデータ・マーケティング手法とは?


マーケティングに使われるデータとして、従来はPOSデータが重視されてきましたが、POSデータは「売れないものを棚からおろすためのデータ」であって、これから売れる商品を洗い出すためのものではありません。実際に、発売と同時にある期間売れ続け、在庫も切れた商品(POSデータでは非常に好調に見えます)が半年後には競合商品の出現などによって売れなくなった、という事例もあり、その場合も月単位のスパンでクチコミデータを分析していたら売れ行きを予測できた可能性があるなど、これから売れる商品を探るためのデータとしては、クチコミデータが非常に有効だと期待できます。
一般論として、ある化粧品メーカーが自社製品のユーザーが他にどのような商品を使用しているかという情報は持っていないと思われます。しかし、@cosmeでは、ある商品を使用しているユーザーが他にどんな商品を使用しているかを並べてみることができ、ユーザーのイメージがおぼろげにとらえることができます。このおぼろげとしたイメージをマーケティングリサーチを実施するための仮説構築のための情報として非常に効果的に使うことが可能になります。


■現状のマーケティングにおける問題点


  1. マーケティングコストの高騰
    かつては店頭で顧客データを集められたが、店頭→Web→携帯へと移行しながら、システム構築等をすることにより、顧客データを獲得する単価がどんどん高くなっています。そして、システムを作ってデータを収集・管理するにはセキュリティコストもかかってきますし、そのデータを分析するアナライズコストもかかってきます。これらコストを負担した上で、さらに従来どおりのコミュニケーションコストが発生するので、各社で負担すべきコストは非常に大きくなっているのが現状であるといえます。


  2. 自社商品のユーザー以外の顧客データも必要 商品開発などのマーケティング上、自社製品のユーザーデータだけではなく、他社製品のユーザーのデータも重要となります。何故その商品を選んで買ったのか、どのような点で商品を決定したのかなど、自社製品のユーザーだけのデータでは十分な分析ができない状況があります。そのような場合に、他社製品のユーザー情報を収集するには、相当のリサーチコストが発生し、これも各社の大きな負担になっています。
■@cosmeによるCommunity Relationship Managementによる業界全体の最適化


上記のように、各社がそれぞれデータを集めることには限界があるため、誰もが持っているようなデータは低コストで共有しながら、各社ごとに必要なデータをコストをかけて収集・分析すべきであるという発想から、みんなで使える顧客情報を集めて活用できるプラットフォームコミュニティを作り、業界全体を最適化することがアイスタイルのコンセプトということになります。
またコミュニティに集まってくるデータをベースにしながら、年齢や肌質別のセグメントでより詳細なリサーチをかけることも可能になり、アイスタイルを介在させることによって各社が自社の名称を明かすことなく必要な情報を収集できるといったメリットを提供できることもアイスタイルの強みということができます。

@cosmeでは、ユーザーが何を使っているのか、わかるようなデータベースを一元化して作ることによって業界全体を最適化することを目的にしています。
これまではJANコードがPOSシステムで使われ、どこで何が売れたかという分析をした段階で役割を終えていたのですが、@cosmeではJANコードにユーザーIDを紐づけながら、売れた後のクチコミデータも付加することによって、業界内全体で使えるデータベースを作っており、例えば、Yahoo!Beautyでも@cosmeのデータを使っているように、業界内で@cosmeの商品コードを使ってコミュニティの情報を共有してもらうことが大きなメリットになると考えています。
また、顧客情報の共有化を考え出したとしても、それぞれの企業がばらばらに考えても実現がなかなか難しい中で、@cosmeが間をとりもつように働きかけることによって進めることができるのではないかということも考えられるなど、化粧品業界の中でアイスタイルが果たす役割は非常に大きなものになるのではないかという期待がふくらむお話でした。


■現在の課題
  1. データの値段がついていないこと
    現在、収集しているデータを企業のマーケティングに活用するため販売することがあるのですが、これまでにコミュニティで収集したデータを販売していた事例がないため、リサーチなどのオペレーションコストと比較されてしまうことが多いようです。しかし、コミュニティを維持していくための、メンテナンスコストをはじめ、大きなコストがかかっているため、今後メンテナンスコストをペイできる価格の設定が課題となっています。
    @cosmeのサイトを立ち上げて以来、ブロードバンドの普及などに伴ってインターネットに接続しサイトを閲覧するインフラコストが急激に下がったため、トラフィックが予想を超えて大きくなり、サーバの増強などパフォーマンスコストが大きくなってしまったそうですが、ハードのコストも同様に下がったので現状では何とか対応できているようです。


  2. コミュニティから提供できるデータが実売(POS)データと連動していない
    新商品の発売の際に、発注ロットは新商品にかける広告コストに連動させているのが一般的です。
    販売店側から見ると、大量に発注してディスカウントしてもらい、在庫を抱える期間を短く、早く売れるようにフェイスをとることになります。
    メーカーは店舗でフェイスをとってもらっていれば多くの広告を出すことになります。
    しかし、実際に売れるかどうか、また売れた後ユーザーがどのような評価をするかどうかはまったく関係ないために、POSデータとコミュニティから導かれるデータが連動せず、各社の担当者の理解が得にくいという現状があります。
■今後の展開


現状はネット上でユーザーの情報を蓄積している段階ですが、これからはネットからリアルの世界へ展開していく予定だそうです。
  1. ムック本の刊行
    ネット環境のない人にも情報提供しようということで、「本当に良かったコスメ487」という本をムック形式で5万部発行し、ランキンランキン(ranKing ranQueen)で棚を作ってもらったところ、本物の商品よりも本の方が売れてしまったというエピソードもあったそうです。


  2. イベント開催
    BtoC向けのイベントとして東京国際フォーラムで「@cosmeEXPO★2004」を2日間開催。


  3. 店頭との連動
    ドラッグストアのセイジョーの一部店内に「ランキング棚」や「クチコミPOP」などを設置、一般の棚と違ったバーコードをつけて購買状況をチェックしているほか、店舗の2階フロアを@cosmeのフロアにして、商品のランキングをチェックできるタッチパネルの端末を置いたり、ランキング棚を設置したり@cosmeならではの店づくりをしながら、2階フロアを有効に使えていなかった店舗側と顧客データの収集という@cosmeとのお互いのメリットを共有する仕組みを構築しています。


  4. 協調フィルタリングの仕組みによるカウンセリング
    化粧品は顧客に対してカウンセリングをしながら販売する場合があり、店舗の販売員は各メーカーに勉強しに行くのですが、時間がない場合にはどうしてもある特定のメーカーに偏ってしまう傾向があるようです。そこで、そのメーカーでの勉強にかえて@cosmeのクチコミ評価データを使い、47万人の会員データをもとにしたカルテづくりやカウンセリングが可能になります。
■まとめ


あくまでもコミュニティに密着してデータベースを構築することにこだわったビジネスを展開しているアイスタイル・@cosmeですが、1.5兆円という非常に大きなマーケットの中で、ネット上に業界No.1のメディアを持つとともに、メーカーをクロスオーバーした顧客のクチコミデータベースを確立すれば、バーチャルとリアルにまたがったマーケティングプラットフォームとして今後の展開が非常に期待できそうです。


                                          2004.11.11
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